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甲状腺の答えを求めて旅に出る(7)

ということで、TSHの4とか2.5とかいう数字の根拠が大分クリアーになってきました。

TSH < 4という根拠

まず、4という数字はどこからきているかというと・・・どこだっけな・・・えっと・・・あ、あったあった。
の、2. Definition and Prevalence of SCHの最後の段落だ。

To overcome this limitation, the updated ATA guidelines published in 2017 [1] still strongly recommend using a laboratory or population-based pregnancy-specific TSH reference range. However, when this is unavailable, taking into consideration the latest findings, the recommended TSH upper normal limit cutoff is 4.0 mIU/L, which usually corresponds to a reduction of ~0.5 mIU/L compared with the nonpregnant TSH reference range.
TSHのカットオフ値は地域とか人種とかによって変わるそうな。
(確かに食事(民族食)とか、海沿いか海なし県かでも変わりそうな気もするね。)
なので、自前で用意せよ、と。
でも、これが使えない場合は、4にしとけ、と。
で、4は、妊娠してない人のカットオフ値の0.5位低い値なんで、ま、漏れることは無いでしょ、という感じかな。

TSH < 2.5という根拠

ということで、2.5という数字は、妊娠初期の正常上限から来ているようです。
妊娠すると、(ややこしい解説は以下の英文に譲りますが)TSHは総じて低下する、で上限値が2.5になる、というわけですね。

During pregnancy, the thyroxine binding globulin increase results in an increase of total T4 levels. Additionally, owing to homology between human chorionic gonadotropin (hCG) and TSH resulting in cross-reactivity, hCG can bind at the TSH receptor and stimulate the thyroid hormone production, leading collectively to a decrease in the TSH secretion by the pituitary, particularly in the first trimester [25].


じゃあ、まさに妊娠に向かっている人は??4でいいの?先回りして2.5以下がいいの?というと・・・

4以上は
流産率が上昇するという明らかなエビデンスがある。
妊娠率が上昇し、流産率が低下する、という明らかなエビデンスがある。
(新生児の)発達に影響するという明らかなエビデンスがある。
甲状腺ホルモン療法を行い、2.5以下にコントロールすることが推奨される。

2.5~4は
不妊原因となっているか?というと、そうしたエビデンスは得られなかった。
流産率が上昇するかどうかははっきりしていない。
2.5~4の場合はどうすればいいのか?ははっきりしていない。再検していく、でもいいし、もう治療しちゃってもいいかもしれない。
TSHが2.5以上が反復する場合や、何かしら他のリスクがあるなら、抗TPO抗体測定を考慮してもいいのかもしれない。
抗TPO抗体が陽性なら、TSHを計測し、2.5以上なら治療を考慮すべきでしょう。

だね。
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甲状腺の答えを求めて旅に出る(6)

潜在性甲状腺機能低下症に関しては、アメリカ生殖医学会が2015年にガイドラインを出していますので、これを取り上げてみます。のSummaryとRecommendationを見てみたいと思います。

Summary
  • Subclinical hypothyroidism is defined as a TSH level greater than the upper limit of normal range (4.5–5.0 mIU/L) with normal FT4 levels.
    (潜在性甲状腺機能低下症はfT4が正常で、TSHが正常上限(4.5-5.0)を上回ることを言います。)

  • The normal reference range for TSH changes in pregnancy. The upper limit of normal in most laboratories is 4 mIU/L for nonpregnant women and 2.5 mIU/L in the first trimester of pregnancy.
    (妊娠すると、TSHの正常範囲は変わります。非妊時の上限は4程度ですが、第一三半期(注:妊娠初期の解釈で大体OK)では2.5くらいです。)

  • This guideline was conducted because it is controversial whether or not to use first-trimester pregnancy thresholds for upper limit of TSH (i.e., >2.5 mIU/L) to diagnose and treat SCH in women attempting pregnancy.
    「じゃあ、不妊治療をしている女性の診断基準はどっちなの?非妊時の4を使えばいいの?妊娠初期の2.5を使えばいいの?」という議論があるので、このガイドラインが立ち上がったよ。)

  • There is insufficient evidence that SCH (defined as TSH >2.5 mIU/L with a normal FT4) is associated with infertility
    (「TSHが2.5以上」が不妊原因となっているか?というと、そうしたエビデンスは得られなかったよ。)

  • There is fair evidence that SCH, defined as TSH levels >4 mIU/L, is associated with miscarriage, but insufficient evidence that TSH levels 2.5–4 mIU/L are associated with miscarriage.
    (「TSHが4以上」だと流産率が上昇するという明らかなエビデンスがある。けど、「2.5~4」は流産率が上昇するかどうかははっきりしていないよ。)

  • There is fair evidence that treatment of SCH when TSH levels are >4.0 mIU/L is associated with improved pregnancy rates and decreased miscarriage rates.
    (「TSHが4以上」だと、治療すると、妊娠率が上昇し、流産率が低下する、という明らかなエビデンスがあるよ。)

  • There is fair evidence that SCH when TSH levels are >4 mIU/L during pregnancy is associated with adverse developmental outcomes; however, treatment did not improve developmental outcomes in the only randomized trial.
    (妊娠中にTSHが4以上あると、(新生児の)発達に影響するという明らかなエビデンスがあるよ。だけど、「じゃあ、治療すれば新生児の発達状況が改善するよ」と言えるか、というと1件報告があるんだけど、その報告では「治療してもしなくても変わらなかった」という結論になっているよ。)

  • There is fair evidence that thyroid autoimmunity is associated with miscarriage and fair evidence that it is associated with infertility. Levothyroxine treatment may improve pregnancy outcomes in women with positive thyroid antibodies, especially if the TSH level is over 2.5 mIU/L.
    (甲状腺の自己抗体があると、不妊原因となり、流産率が上昇する、という明らかなエビデンスがあるよ。で、抗甲状腺抗体が陽性で、特に、TSHが2.5以上なら、甲状腺ホルモンを内服すると妊娠率が上昇する可能性があるよ。)

  • There is good evidence against recommending universal screening of thyroid function during pregnancy.
    (妊娠中の甲状腺機能のスクリーニングは推奨されていません。)




Recommendations
  • Currently available data support that it is reasonable to test TSH in infertile women attempting pregnancy. If TSH concentrations are over the nonpregnant lab reference range (typically >4 mIU/L), patients should be treated with levothyroxine to maintain levels below 2.5 mIU/L. (Grade B)
    (妊娠希望の女性にTSHを検査することは合理的でしょう。治療適応はTSHが正常上限(一般的には4でしょうか)を超える場合で、甲状腺ホルモン療法を行い、2.5以下にコントロールすることが推奨されます。)

  • Given the limited data, if TSH levels prior to pregnancy are between 2.5 and 4 mIU/L, management options include either monitoring levels and treating when TSH >4 mIU/L, or treating with levothyroxine to maintain TSH <2.5 mIU/L. (Grade C)
    (じゃあ、妊娠前のTSHが2.5~4の場合はどうすればいいのか?というと、データーが限られているため何とも言い難いですが、一応管理指針としては、モニターしていって、TSHが4を超えたら治療する、とか、2.5以下に下げるために甲状腺ホルモン療法を行うなども一法です。)

  • During the first trimester of pregnancy it is advisable to treat when the TSH is >2.5 mIU/L. (Grade B)
    (妊娠初期は2.5以上なら治療開始すべきでしょう。)

  • While thyroid antibody testing is not routinely recommended, one might consider testing anti-thyroperoxidase (TPO) antibodies for repeated TSH values >2.5 mIU/L or when other risk factors for thyroid disease are present. (Grade C)
    (抗甲状腺抗体を有するかどうかの検査はルーチーンでおこなうことは推奨しませんが、TSHが2.5以上が反復する場合や、何かしら他のリスクがあるなら、抗TPO抗体測定を考慮してもいいのかもしれません。)

  • If anti-TPO antibodies are detected, TSH levels should be checked and treatment should be considered if the TSH level is over 2.5 mIU/L. (Grade B)
    (抗TPO抗体が陽性なら、TSHを計測し、2.5以上なら治療を考慮すべきでしょう)



次回「年齢因子勉強会」日程決定!

はい。次回「年齢因子勉強会」の開催日程が決まりました。
ご希望がございましたらご参加ください。


★公開勉強会:「38歳からの不妊治療~年齢因子の正体を探る」★
ご興味のございます方の御参加をお待ち申し上げております。
  • 2019年4月28日(日) 11:00~12:30 「クリニック内」
【予約法】 クリニックHP「お問い合わせ」フォームよりご予約下さい。
(参加人数をご明記ください!)


38歳からの不妊治療は、「まだ大丈夫」と思っている方が実に多いのですが、そのお考え
はっきり言って『甘い』です。
何もかもをを投げうって、全身全霊で不妊治療に全てを捧げても、それでも『勝てない』人が大勢います。
実際には既に最終決断の時となっております。
「知らなかった」
では後悔先に立たずでございます。
(経験者は「こんなに苦戦するのか!」と、身をもってご存じでしょうが・・・)


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甲状腺の答えを求めて旅に出る(5)

さて、そういうわけで、
①「甲状腺ホルモン:正常、TSH:↑」のことを「潜在性甲状腺機能低下症」とい呼ぶ。
②潜在性甲状腺機能低下症では、甲状腺ホルモンは正常なくせに、さらに甲状腺ホルモンを補う、ということがやられることがある。
甲状腺ホルモンは正常にもかかわらず、「だが補う」、という一見不可解な行動なわけです。
③で、今のところ、一般不妊治療では、この「甲状腺ホルモン正常、だが補う」が有効なのか無効なのかを調べたデーターは無い。
④一方、ARTでは「甲状腺ホルモン正常、だが補う」は、TSHが4とか4.5以上ならいいこと起こるんじゃない?
⑤で、その「いいこと」とは、もしかしたら「胚質」が良くなるのかもよ??
⑥一方で、「抗TPO抗体陽性」というだけで「TSHすら上昇していない」状態では、甲状腺ホルモン補っても変わらないっぽい。

というところまで来ました。

ということは、「TSH↑という状況がよろしくない」という感じなんですかね。

そんな中、なかなか面白い論文があります。この論文は、「卵子提供プログラムで、ドナー(すなわち卵子を提供する若い人)のTSHがどう影響するのか?を見てみた!」という論文です。
なるほど、考えた人はカシコイ!ですね。
  • で、ドナーの方のTSHが2.5未満か?2.5以上か?で見てみた。
  • 臨床的妊娠率は66.7% v.s. 43.1%で、TSHが2.5以上の方が有意に低かった。
とのことです。
で、この先生たちは、
These findings suggest that thyroid function may impact the likelihood of pregnancy at the level of the oocyte.
つまり、甲状腺機能が、もう卵子そのものの質に影響しちゃってるんでないの?と推察しています。

ちょっとdiscussionのところを抜粋してみたいと思います。

Although an exact mechanism cannot be assumed, our results imply that thyroid function may contribute to outcomes prior to implantation, possibly at the level of the oocyte. Similarly, a study by Cramer et al. (2003) also highlighted the importance of pre-implantation thyroid function by demonstrating that elevated TSH correlated with poor fertilization in IVF but not with overall success rate [18]. Moreover, thyroid hormones have been found in follicular fluid [19] and their receptors are present on granulosa cells [8], further lending plausibility to the notion that thyroid dysfunction may impact ovarian and follicular physiology and oocyte quality. Of note, we did not find any difference in fertilization rate among donors with high or low TSH levels, nor did we observe any heterogeneity in the relationship of donor TSH and clinical pregnancy by insemination type (conventional insemination versus ICSI [intracytoplasmic sperm injection]). Despite the negative association between donor TSH and clinical pregnancy, we did not observe any associations with cycle characteristics that could account for the relationship.

要するに、TSH↑の勝負は、もう、卵子の時点で付いてしまっている、というわけです。
なるほど、うまく使いたい情報です。

【本日の収穫】
なるほど、TSH↑は「着床」とか、そういうレベルではなく、もっともっと前、そもそも「卵子の質」に影響しているらしいぞ。
これは使える!
(悪だくみwww)

旅は続く

甲状腺の答えを求めて旅に出る(4)

5. Treatment of SCHA. Diagnosed Before Conceptionを読んでいます。

昨日の続き。

In patients undergoing artificial reproductive techniques, evidence from randomized controlled trials shows that LT4 therapy improves pregnancy and miscarriage rates in women with SCH. In one trial, women with SCH (TSH > 4.0 mIU/L) undergoing in vitro fertilization (IVF)/intracytoplasmic sperm injection were randomized to 50 μg of LT4 therapy with a goal to normalize TSH before IVF or placebo (35 women in each group) [67]. The LT4 arm had a lower miscarriage rate (9% vs 13% for control, P = 0.03) and a higher live birth rate (26% vs 3% for control, P = 0.02).

文献[67]がこちらで、こちらは
  • TSHが4.0より高い潜在性甲状腺機能低下症の患者さんを、甲状腺ホルモン療法を行う群(group A)とプラセボ群(group B)に分けた。
  • 治療後のTSHはgroup Aが1.1、group Bが4.9(そりゃそうだ)
  • で、体外をやった、と。
  • 採卵数はgroup Aが6.19 ± 0.74、group Bが6.08 ± 0.79で差は無し。
  • 流産率はgroup Aが9%、group Bが13%で有意差あり。
  • 臨床的妊娠率はgroup Aが35%、group Bが10%、出生率はgroup Aが26%、group Bが3%で有意差あり。
  • で、胚質に関係するのではないか?とのこと。


Similar results were seen in another randomized control trial of 64 infertile women with SCH (TSH > 4.5 mIU/L) undergoing IVF/intracytoplasmic sperm injection [68]. The 32 women randomized to 50 μg of LT4 with a goal to reach and maintain TSH of <2.5 mIU/L had a lower miscarriage rate (0% vs 33%, P = 0.02) and higher live birth rate (53% vs 25%, P = 0.04) compared with the control group.

文献[68]がこちらこちらは
  • 64人の潜在性甲状腺機能低下症の患者(TSH > 4.5)を、チラージン50μg/dayを内服する群とコントロール群に32人ずつに分けた。
  • 形態良好胚は、チラージン群のほうが有意に多かった。
  • 臨床的妊娠率には有意差は無かった。
  • しかしながら、流産率はチラージン群のほうが有意に低く、出生率は有意に高かった。
  • こちらも、チラージンは胚質が良くなる、とのこと。


A recent randomized controlled study showed that LT4 treatment, titrated to keep the TSH level at <2.5 mIU/L and <3.0 mIU/L in first and second to third trimesters, respectively, did not benefit euthyroid women (TSH of 0.50 to 4.78 mIU/L) with positive TPOAb undergoing IVF [69]. A stratified analysis by TSH level >4.0 mIU/L did not show any benefit with regard to pregnancy loss between treated and untreated women; importantly, however, note that by study design there were only 17 women with TSH of >4.0 mIU/L.

文献[69]はこちら
ただし、この文献は、TSH↑を対象にしているのではなく、「抗TPO抗体陽性で、TSHが0.50~4.78の範囲内の人」を対象にしている点が今までの文献とは異なっています。
つまり、単に「抗TPO抗体が陽性」というだけで、甲状腺機能は低下どころか、そもそもTSH上昇すらもしていないレベルの人、つまり、「潜在性甲状腺機能低下症にまだ至っていない人」を対象としているわけです(一部潜在性甲状腺機能低下症の人も入っているようですが。ただし、その人数は、ここに書かれている通り、(TSH > 4の人は)17人に過ぎない、というわけです)。

なので、そういうレベルの人(抗TPO抗体を持っているけど、TSHは上昇していない人)は、チラージン飲んでも、何も変わらない、という論文です。
そんなわけで、対象患者が違うので、ここで列記されているのにはちょっと違和感がありますわな。

脇道にそれますが、同じ「抗TPO抗体が陽性だ」というだけでは、チラージン飲んでも無効、というのは、つい先日のNew England Journalにも載っていましたね。
えっと、どれだ??これこれ。


Finally, a large prospective study of 270 patients with SCH undergoing IVF who received LT4 therapy showed similar miscarriage and live birth rate between those who achieved a target TSH level of 0.2 to 2.5 mIU/L compared with a TSH level of 2.5 to 4.2 mIU/L [70]. These data suggest that there may be no benefit in strictly controlling TSH levels (<2.5 mIU/L) for those women with SCH receiving LT4 therapy who are undergoing assistive reproductive techniques.

えっと、文献[70]はで、この論文は、潜在性甲状腺機能低下症の患者にチラージンを投与すると、体外受精の成績が良くなる、ということはもう認めている。
で、じゃあ、TSHはどこまで下げればいいの?という点を論じている、というわけです。
で、
  • TSH > 4.2の患者さんを対象にチラージンを内服してもらった。
  • で結果的に0.2-2.5mIU/Lまでさがった人 v.s. 2.5-4.2 mIU/Lまでしか下がらなかった人で比べてみた。
  • その結果臨床的妊娠率、流産率、出生率に有意差は無かった。
  • 2.5以下まで厳格に下げる必要はないんでない??

と書いてあります。


【本日の収穫】
  • 甲状腺機能正常、TSHも正常(だけど、採血すると抗TPO抗体だけ出る)
    →チラージンいらないんでない??

  • 潜在性甲状腺機能低下症(甲状腺ホルモン正常だけど、TSH↑)
    →チラージン飲むと、胚質良くなるんでない??

  • 明らかな甲状腺機能低下症(甲状腺ホルモン↓、TSH↑)
    →チラージンいるでしょ。
ということだ。

OK.それはわかった。

TSHが正常範囲なら、甲状腺ホルモン補っても意味ないわけですわな。
じゃ、なんで甲状腺ホルモンは正常値なのに、TSHが上昇していれば、さらに甲状腺ホルモンを補うと胚質が良くなるのか?の理屈がよくわからん。

採血のfT4は正常値に出ていても、実は不足しているってこと???
TSHが直接、胚にダメージを与えてるってこと???

「考えるな、感じろ」
ってか???

旅は続く

Appendix

プロフィール

ドクターI

Author:ドクターI
武蔵境生息、(自称)不妊屋「ドクターI」、自己流生殖医療を語ります。

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