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不妊治療と先天性インプリンティング遺伝子異常(5)

で、ようやく本題。

当初書いた通り、ここから先は非常にデリケートな問題だと思います。僕が書いた砕けた表現で誤解を与えてしまうといけないので、この分野の専門家の先生の論文を参照しておきたいと思います。
えっと、です。
一ページ目の第二段落~

「DNAメチル化に代表されるエピジェネティックな修飾は、・・・・、ヒトARTはインプリントが獲得される時期の配偶子を操作するため、排卵誘発、配偶子操作、培養液などの外的要因のメチル化への影響について懸念されている。このため,DNAメチル化異常(エピゲノム変異)を伴うインプリンティング異常症(先天奇形症候群)の発症率が増加している理由と指摘する研究者が数多くみられる。」

という内容を以下説明するつもりです。

で、2ページ目の左下

「これらの結果をまとめると、・・・・、生殖細胞形成過程におけるメチル化の獲得の異常というより、むしろ受精以降のメチル化の安定性維持機構の障害が疑われる。」

というところも触れます。


この分野の専門家の先生たちの頭の中には、
不妊治療で精子/卵子(特に卵子)に「手を加える」時期が、ちょうどメチル基をくっつける時期に相当するので、本来ならちょうどいい具合にメチル化されるべきところを、不妊治療の色々なステップが「邪魔」するんじゃないか?
という疑いがあるのです。

で、メチル化の程度が、本来行われる程度と違ってしまうのではないか?
即ち、エピジェネティックに行われる遺伝子制御に狂いが生じてしまうのではないか?というわけです。

今のところ不妊治療と関連すると報告されているインプリンティング異常症のメチル化異常症はほぼ卵子で、卵子側が本来メチル基をくっ付けるべきところのメチル化が「甘い」か「されていない」というものです。

こうなる理由として考えられているのは、今までお話ししてきたごとく、
・そもそも卵子が精子に比べていっぱいメチル化すべきところがあること
・卵子は成熟するギリギリまでメチル化を行っていること
などが言われているそうです。

「邪魔の仕方」は2パーターン考えられていて
・「卵子」の仕事を邪魔してしまうパターン → 排卵誘発
・「卵子」がいい状態に一度きちんとメチル化したものを、環境が異なるがゆえに剥がれてしまうのではないか?パターン → ICSIなどの配偶子操作、培養環境
というわけです。

で、細かいことを言うと、最近の研究からは、どうやら後者、すなわち、「一度メチル基が付いたものが剥がれてしまうパターン」の方がメインらしいと考えられているようです。

このインプリンティング遺伝子のメチル化が甘くなるかも知れないことが、では、生まれてくる子に何か影響を及ぼすのか?許容範囲なのか?が議論になっている。というわけです。

だから、
「不妊治療と小児癌の関連がある?/ない?」
「不妊治療と小児の精神疾患の関連がある?/ない?」
と超有名論文でやっているわけです。

つまり、(1)で紹介した「有意差なし」というのは、読み替えると、
「不妊治療の行為自体はインプリンティング遺伝子のメチル化が甘くなるかも知れないよ。でもそれは「小児癌」という意味では問題ないレベルなのかもしれないよ。」
逆に「有意差あり」というのは、
「不妊治療の行為自体はインプリンティング遺伝子のメチル化が甘くなるかも知れないよ。それが原因なのかどうかは別問題だけど(←ここ重要。また解説します。)、確かに子供にがんの発生が少し増えるようなんだ。」
という深~~~~~~~い意味が込められているのです。

なので、
「不妊治療でがんが増えた!大変だ!」
とか
「不妊治療でがんは増えなかった!安心だね!」
とかいうレベルのニュースは、本当に数字の解説をしているの過ぎず、その数字が裏で持っている重要性が伝わっていないと思うのです。

では、次回は、「有意差あり」の論文の方で
「不妊治療の行為自体はインプリンティング遺伝子のメチル化が甘くなるかも知れないよ。それが原因なのかどうかは別問題だけど、確かに子供にがんの発生が多少増えるようなんだ。」
のところ。つまり「それが原因かどうかは別問題だけど」のところが、実際にはどのように考えられているのかを解説したいと思います。

ああ、やっぱりこの辺の内容は解説が難しいなぁ。やっぱり止めればよかったかな・・・・。
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Author:ドクターI
武蔵境生息、(自称)不妊屋「ドクターI」、自己流生殖医療を語ります。

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