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不妊治療と先天性インプリンティング遺伝子異常(6)

ということで、今日は、「不妊治療後の小児がんのリスクが増える」としている論文を読んでみたいと思います。
最初にご紹介したこちらになります。
で、今までお話ししてきたとおりですが、注意点として、

(1)この手の内容は「増える」とする報告もあれば「変わらない」とする報告もあり、両論入り乱れています。一本の報告で一喜一憂する類のものではないと考えるべきです、というのは今までお話してきた通りです。
(2)そんなわけで本来読み解くのは「増える」「変わらない」という結果では無くて(・・・まあ、そうは言っても、それも大事なのですが・・・)、そのバックグラウンドとしてこの分野の専門家たちがどうしてこうした検討を行ったのかの理由、専門家の先生たちが何を疑問と感じているのか?その結果出て来た数字をどう解釈しているのか?


という視点で見るべきなのです。
面白おかしく騒ぎ立てるニュースと同じレベルの解釈では少し残念な感じです。
で、結論から言ってしまうと、この論文もきちんと読むと
「確かに有意差をもって小児がんの発症が増えました。でも、その原因は本当に不妊治療の手技によるものかどうかは甚だ疑問で、かつ、思ったほどの頻度ではないようだ」
という論調なのがわかります。

では要点を箇条書きにしてみます。

  • この論文では、体外・顕微のみをART(assisted reproductive technology)、一般不妊治療+体外・顕微をMAR(medically assisted reproduction)と定義して検討しています。
【結果】
  • 全ての小児がんではMRAで相対危険度1.33、ARTで1.40で有意差を持って上昇。
  • 血液がんでは、MARで1.59、白血病で1.65で有意に上昇。
  • 中枢神経悪性腫瘍では、MARで1.88、ARTに限定すると3.53に、神経芽細胞種では4.04、ARTに限定すると15.6に有意に上昇
  • 他の固形がんではMARで約2倍(2.19)にリスクが上昇、ARTに限定すると相対危険度は4.29であった。
【考察】←ここが大事!
  • 今回我々が検討した25のコホートおよび症例対象研究の検討では、不妊治療後に小児がんの頻度が上昇する、という結果になった。
  • しかしながら、今回の結果が仮に真実だったとしても、がんの発症率を上昇させた原因が治療そのものにあるのか、または、それ以外の要素によるものなのかははっきりしてはいない。
  • 治療内容をARTのみに限ると、全てのがんと血液がんでは顕著な増加にはならなかったが、中枢神経悪性腫瘍とそのほかの固形がんではMARにくらべて顕著に増加した。
  • 小児がんの疫学は未知の部分が多いが、不妊治療の関与が示唆されているのも事実である。
  • 繰り返しのホルモンへの暴露、精液の調整、凍結操作、培養液、培養条件といった行為により引き起こされる「エピジェネティックな変化」などがその原因となっているのかもしれない。
  • ゲノム・インプリンティングのようなエピジェネティックな機序は、癌化の重要な役割を担っていると次第に考えられるようになっている。
  • 大きなゲノム・インプリンティング変化は、ちょうど不妊治療が介入する時期に一致して起こっている。
  • 不妊治療後のインプリントの欠損はゲノム・インプリントの確立期(排卵誘発、IVM、精子/卵子の凍結)と、その保守期(胚培養、胚凍結)に起こっているのかもしれない。
  • しかしながらこの結果は不妊治療の過程で起こっているのではなく、(対象者が)「不妊症」という状況により引き起こされている可能性も考慮しなければならない。
  • 不妊症のカップルがもともと配偶子(管理人注:精子/卵子のこと)にエピジェネティック異常を引き起こしやすい可能性もある。
  • 結論として、今回の検討からは、不妊治療と小児がんにはは関連性があるという結果に至った。
  • しかしながら、不妊治療の結果生まれた児のがんに対する絶対的リスクは低い。
  • デンマークでは年間150人の子供が新たにがんと診断されている。デンマークでは9%の子供がMARにより生まれているので、不妊治療が影響して発がんしていると考えられる増加分は、今回の結果を当てはめてみると年間4.4人の増加ということになる。(あー、ここ訳の言葉が難しい。気分を害さないで、筆者の先生の言いたかろうことをくみ取ってください!)


次回、この内容のまとめの予定です。
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Author:ドクターI
武蔵境生息、(自称)不妊屋「ドクターI」、自己流生殖医療を語ります。

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