Entries

不妊治療と先天性インプリンティング遺伝子異常(7)

というわけで、インプリント遺伝子のエピジェネティック制御系の話でした。
僕自身も未だ消化不良気味であることは否めない所を、さらに噛み砕いた形で解説してきましたので、誤解を与えてしまう表現になってしまったところもあるかと思います。

昨日ご紹介いたしました論文の考察のところを少しだけ考えてみたいと思います。

「ヒトゲノム計画」という言葉があります(した?)。
「染色体上に乗っている遺伝子の塩基配列を全て確定できれば、ほとんどの病気の原因が解明できるのでは?」
という発想の元、鼻息荒くDNAの塩基配列の全てを読んでしまえ!ということが行われていました。
ほんの10年前の話です(僕の博士論文もこの内容)。

で、2003年に全ての塩基配列が解読されたのですが、その結果わかったのは、ほとんどの病気はこの遺伝子の配列の変化によるものではない、ということだったのですね。

結局、遺伝子の抑制の多くは、今回の話のごとく遺伝子(ゲノム)内で行われているわけではなく、遺伝子外(エピゲノム)で行われていることが広く認識されるようになりました。

そんな状況なので、遺伝子のエピジェネティック抑制のメカニズムの解明はまだ始まったばかりという状況なのです。現在進行形。
逆にいうと、まだよくわかっていないわけですね。

その中で、どうやら、不妊治療の結果「エピジェネティックな変化」が起きているらしい、という意見が目立ってきている。

じゃあ、
  • 本当に「エピジェネティックな変化」が起きているの?
    ・・・多分、そうっぽい感じ。偉い先生たちがそうだって言うんだよ。
  • 何が「エピジェネティックな変化」を起こしているの?
    ・・・よくわからない。これから。
  • 「エピジェネティックな変化」が起きているとして、それがどうなるの?
    ・・・よくわからない。これから。
という状況なんだろうな?と僕は理解しているわけです。(もしこの分野の専門家の方がご覧になっていたら、こういう認識で本当にいいのかどうかご意見下さい。)

で、

2番目の「何が「エピジェネティックな変化」を起こしているの?」の候補は
・そもそも「不妊である」というその人の状況がメチル化異常を起こしやすい状況にあるのではないか?
・いや、やはり、不妊治療の手技そのものがメチル化異常を引き起こすのではないか?
という両論があるわけですね。

前者、すなわち、「メチル化異常を引き起こしやすい状態」が「不妊」として表出してきている、という説を示唆するものとしては、例えば「精子のメチル化異常が高率だと、その精液検査所見が悪い」という報告もあるようです。

なので、最近の考え方としては、両方とも関係している、すなわち、患者背景にそもそもメチル化異常が起こりやすい背景があり、そこに不妊治療が輪をかけるのではないか?という考え方もあるようです。

で、3番目の「「エピジェネティックな変化」が起きているとして、それがどうなるの?」というのが、直近目に付くようになってきた
「不妊治療と小児癌の関連がある?/ない?」
「不妊治療と小児の精神疾患の関連がある?/ない?」
という報告なわけです。
なので、この辺もまだまだ混沌としていて、両論出てくる。
で、ここがニュースとして結果だけ取り上げられているという状況なわけです。

僕も所詮1傍観者でしかなく、今まで書いてきた内容が本当に正しいのかどうかも含め、わからないことだらけです。

体外受精/顕微授精を「高度不妊治療」などと表記してあるシーンを目にすることがあります。
高度とは何ぞ?
我々は神様の用意した周到なメカニズムである自然の摂理を、理解し終えてはいません。
やはり自然の摂理には畏怖の念を持って敬意を表するべきでありましょう。

僕は昔、HPのどこかに「将来やりたいことは、低度不妊治療のクリニック」と書きました。
えっと、こちらでした
これにはそういう意味が含まれています。
この気持ちは今も変わりません(時々揺らぐのですが(笑))。

全てが解明されていなくても、科学という学問の現在までの成果の一端を上手に利用することによって我々の生活が豊かになっているのは事実なのでしょう(異論もおありでしょうが)。

以上が僕の個人的な考え方です。
「不妊治療は安全なのでしょうか?」
「僕レベルの人間にはさっぱりわかりません。神のみぞ知る領域です。」
そういうことなんだろうと今は思っています。

生殖医療を利用する/しない、あるいは、どこまで利用する、という皆さんが持っていらっしゃる判断も、つまりはそういうことなのでしょう。

ニュースも結局何もわかっていません。
専門家も結論を出せていません(今頑張ってくれています)。
神のみぞ知る領域なのです。
「無知の知」の考えでこの判断をなされるのがよろしいかと思います。
スポンサーサイト
この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)
http://dokumotti.blog.fc2.com/tb.php/111-160b7eec

トラックバック

コメント

コメントの投稿

コメントの投稿
管理者にだけ表示を許可する

Appendix

プロフィール

ドクターI

Author:ドクターI
武蔵境生息、(自称)不妊屋「ドクターI」、自己流生殖医療を語ります。

カウンター