Entries

化学的流産をどうとらえるべきなのか?を考察してみる。

HPをご覧くださった方からいくつかのご質問を頂戴しております。
純粋に「不妊」といった方も多いのですが、いわゆる「不育」に関するご相談も結構頂戴します。
その中で結構多いのが、いわゆる「化学的流産」ですね。

「定義」としては、僕らが所属している日本産科婦人科学会が公的に出しているものによると、
  • 生化学的に妊娠(hCG が検出された、例えば尿中 hCG 測定で50Ul反応陽性)と診断されるが、超音波断層法により胎囊などの所見は確認されず、しかも腹痛や子宮口開大などの流産徴候を伴うことなく月経様の出血をみた場合を呼ぶ。(日産婦誌59巻11号N-664)
  • 一般にChemical abortionと言います。尿を用いた妊娠反応は出たものの、超音波で妊娠が確認できる前に流産してしまった状態を言います。妊娠反応試薬が薬局等で販売され、広く一般につかわれるようになったためにクローズアップされてきた病態です。妊娠反応を行わなければ妊娠と気付かず、月経と考えて過ごしてしまっていることが多いと考えられます。経過を観察します。日産婦ホームページより)
と記載されております。
妊娠反応検査薬が広く使われるようになり、特に妊娠を待ち望んでいる方々は、黄体期後期になるともう居ても立っても居られない気持ちになり、必死になって「妊娠反応検査薬」を連日のように試されている方も多いと思います。
ネット上では「フライング」と呼ばれている行為ですわな。
気持ちはよくわかります。
すると、「うっすら・かすかに・ぼんやりと・なんとなく」反応が出る事があるわけです。
もう心臓はドキドキなのでしょう。寝ても覚めても妊娠反応のことが気になって仕方がない。
毎日毎日妊娠反応をひたすら繰り返す。
そうこうしているうちに、次第に雲行きが怪しくなってくる。
妊娠していると来ないはずの「出血」が・・・。
「何で?何で?」
と思いながら、段々いつもの状態となり、反応のあった妊娠反応も消え・・・・。
といった感じだと思います。

これを毎周期のように繰り返していると、2回3回と同じような事態が起こる場合がある。
「これは一体どういう意味なのだろうか???」
と不安になり、といった感じでメールをくださっているのだろうな?と推察しているわけです。

では、こういった「化学的流産」、どう考えるといいのでしょうか?
ちょっと考察してまいりたいと思います。
今回読んでみる論文は、古いのですが、こちら。です。
(この論文を選んだ理由は後ほど)

  • 200組のカップル(妻の平均年齢30.6±3.3歳(23-37歳))を対象として、その後の妊娠動向を1年間調査
  • 但し、200人全員が「よーいドン」では無く、完全に「よーいドン」なのは83組、他は1-5周期の「避妊していない期間」がある。
  • 月経前連日尿をサンプリングし、hCGを調べた。
  • 観察期間の1年後までに何らかの形で妊娠したのは全体で82%
  • このうち、未経妊(今まで妊娠したことが無い人)だと72%、1経妊以上だと88%だった。
  • 最初の1周期目で何らかの妊娠をしたのは29.5%
  • 第1周期で妊娠しなかったカップルのうち、第2周期で何らかの妊娠をしたのは29.9%
  • 第2周期までで妊娠しなかったカップルのうち、第3周期で何らかの妊娠をしたのは16.8%だった。
  • 積算率では、第2周期までで50%のカップルが、第4周期までで65%のカップルが、何らかの妊娠をした。
  • 第3周期まででは、116組が何らかの妊娠をした。
  • この第1~3周期で何らかの妊娠が成立した116組のうち、流産になってしまったのは36組(=31.0%)
  • そのうちの15組が化学的的流産だった。
  • すなわち、化学的流産の比率は、全妊娠比で15/116=13%、全流産比で15/36=41.7%であった。
  • この、第3周期までで化学的流産になった15組のうち(1組がその後の検討からdropしたので)14組を、最終的に1年後までfollowできた。
  • この14組のうち、11組がこの検討の1年間の期間に再度妊娠し、10組が出産に至り、1組が流産になった。

とのことです。
どうでしょうか?この数字?
奥様の年齢平均が30歳とのことですから、年齢因子は弱いわけです。
で、化学的流産も含めると、そういった年齢因子の無い群でも、全妊娠の実に31.0%が流産しているわけです。

ピンと来ませんかね?もっと噛み砕いて書くと、
年齢因子の無い健康な、平均年齢30歳の女性が、月経予定日直前から「フライング」して熱心に毎日妊娠反応を追っかけたとします。
で、その「フライング」の妊娠反応が「うっすら陽性」に出た場合、その時点から考えると、その妊娠が継続妊娠になる確率は69%
その一方、13%が化学的流産になって、18%が(化学的流産では無い)自然流産になる。

ということです。
これが「フライング妊娠反応陽性」の時点からみた、その後の転機の現実なのです
しかも、平均30歳の、健康な、その後多くの方が出産に至っている母集団でのデーターです。
もちろん年齢因子その他もろもろが加わっていけば、この確率は「負」の方に触れるのは容易に想像されると思います。
そうなんですね。御自身が当たってしまうと悔しいし不安になってしまうし気持ちはよくわかるのですが、実は普通に起こっている現象なんですね。

そんなわけで「フライング妊娠反応」、手を伸ばしたくなる気持ちはよくわかるのですが、どうでしょう?
妊娠反応検査一回幾らぐらいなんですか?
最近は安いの出てるんですかね?
・・・でも、「グッと待て」と言われても難しいですかね?
そんな確率です。よくよく御理解いただいて御使用ください。

僕が実臨床で拝見している患者さんも「化学的流産でした」と報告して下さるシーンがあります。
御本人様は当然ひどくがっかりしていますが、特にタイミング/AIHの場合、僕はこれをpositiveに捉えています
「オシ!来た!」
と。
だって、「着床まで行ってる」わけですよね。
この論文にもありました。
「化学的流産後の11/14人が結果この検討のfollow up中に妊娠成立し、10人が出産に至った。しかも、5人はまさに化学的流産の直後の周期だった。」
ね?「おっしゃ!いけるぞ!」という気になりませんか?
僕だけですか?
(毎度無責任発言で本当に申し訳ないです。)

(ところで化学的流産を説明するときに僕がこの論文を使うのは、この分野の第一人者、僕が勝手に尊敬している杉先生がHPで解説に御使用なさっておられる論文だからです。あしからず。)
スポンサーサイト
この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)
http://dokumotti.blog.fc2.com/tb.php/201-46b64625

トラックバック

コメント

コメントの投稿

コメントの投稿
管理者にだけ表示を許可する

Appendix

プロフィール

ドクターI

Author:ドクターI
武蔵境生息、(自称)不妊屋「ドクターI」、自己流生殖医療を語ります。

カウンター