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酸化ストレスと抗酸化物質(7)

【汝、そのサプリ、無条件に飲むべからず】
「貧血っぽいんですけど」
「はいそうですか。鉄剤出しておきます。飲んでおいてください。」
というシーンが仮にあったとしたらどうでしょうか?

採血してみました。Hb(ヘモグロビン)の値だけ見て、
「ヘモグロビン確かに低いですね。貧血あります。鉄剤飲んでおいてください。」
貧血にも種類があり、その貧血が本当に鉄欠乏によるものなのかを確認しないで鉄剤処方、これも普通は行われないわけです。

ちょっと細かくなりますが、最低限小球性低色素性であることを確認して、必要なら鉄代謝マーカーを確認するわけです。
理学所見もとるかも知れませんね。
眼瞼結膜を見て、心拍数を確認して、いよいよ鉄欠乏性貧血であることを確認して、ようやく鉄剤処方なわけです。

治療効果も確認します。ちゃんとHbが上昇してくるかを見るわけですね。
何で鉄欠乏になっているのかの検索も必要ですね。
食事から摂取する鉄分が少ないのかな?どこかから出血していないかな?
場合によっては鉄の吸収障害がないかな?

僕は血液内科医ではありませんが、それでもこの程度のことはします。



「なかなか妊娠しません」
「はいそうですか。ではご主人さんはこの抗酸化サプリメント飲んでおいてください。」
どうですか?

精液検査して見ました。その値だけ見て、
「運動率悪いですね。男性不妊あります。抗酸化サプリメント飲んでおいてください。」
どうですか?

そういうことなんです。

精巣を触るんです。超音波で精索静脈瘤見るんです。
ホルモン状態チェックして、必要そうなら染色体とかAZFとか調べるんです。
お話を聞いて、生活習慣を確認するんです。
で、いよいよ「酸化ストレスが疑わしい」、あるいは少なくとも「改善しないかも知れないけど、可能性は無きにしも非ず」と判断して、初めて抗酸化療法だと僕は思うのです。

もちろん治療効果も確認します。ちゃんと検査データーが改善して来るかチェックするわけです。
何が酸化ストレスの原因になっているかの検索も必要です。
で、疑わしい点があれば、そこを改善してもらうように努力します。
食生活、禁煙、体重コントロールなどなど。

これが医者の医者たる存在意義であり、また、医者の醍醐味だと僕は思うのです。

「不妊なら、とにかく誰かれ男性は抗酸化サプリ飲みましょう!」
・・・・有り得ん。
狂気の沙汰じゃ。

この点への懸念は、何も僕一人が思っているわけではありません。
こちらは2011年のHuman Reproduction誌上に載った論文ですが、より強い警告を発しています。です。
右上の「free final text」というボタンをクリックすると、論文そのものを見ることが出来ます(英語ですが)。

で、「Abstract」の次に「Introduction」という章があり、その3段落目、「This controversy is mainly due to~」の段落です。
この段落の下の方にこんな記載がなされていますね。

As a result, over the last decade, a small industry has burgeoned around the use of antioxidant nutraceutical formulations with at least 15 such formulations now available in USA alone. Interestingly, they differ substantially in the variety of antioxidants and doses used. No credible human clinical data are reported for any of them. Worryingly, some of these formulations combine a large number of antioxidants with aggressive doses, raising the possibility of ‘reductive stress’ by potentially depleting the physiological levels of ROS known to be critical for normal sperm function.

僕の下手な訳で申し訳ないですが、こういうことです。

結果として、ここ10年で「抗酸化機能性食品製剤」市場は急成長し、アメリカだけでもそうした製品は少なくとも15種類ある。面白いことに、これらに含まれる抗酸化剤の成分や量は製品毎に大きく異なっている。そして、どれも信頼のおけるヒトでの臨床試験のデーターが存在しない。厄介なことに、これらの製品の中には、過剰量の抗酸化剤が複数含まれており、正常な精子機能に必要な、生理的範囲内のROSまでをも枯渇させてしまう『reductive stress』を起こす可能性が浮上してきている。

同じ論文の最後の章が「Summary and conclusion」となっていますが、その直上の所にもこんな感じで書いてあります。

Large doses of antioxidants should be avoided due to specific reactions resulting in possible negative effects. For example, high doses of vitamin C is reported to reduce the interchain disulphide bridges in protamines opening the cysteine net and subsequently promoting DNA decondensation in spermatozoa (Donnelly et al., 1999; Ménézo et al., 2007; Giustarini et al., 2008). Selenium at higher doses significantly reduces the number of motile spermatozoa in fertile men possibly through modifying thyroid hormone metabolism (Hawkes and Turek, 2001). The doses of antioxidants become even more of a consideration when large numbers of compounds are packed into a particular formulation as risks of depleting the essential physiological levels of ROS becomes real, potentially leading to ‘reductive stress’ and the impairment of normal sperm function (Lipinski, 2002).

高用量の抗酸化物質の服用は、逆効果になる可能性があり、避けるべきである。例えば、高用量のビタミンCはプロタミンのジスルフィド結合を減少させ、結果、精子内DNAを脱凝縮することになる。高濃度のセレンは、恐らく甲状腺ホルモン代謝に影響し、妊孕能の確認されている男性での運動精子数を減少させる。様々な成分が含まれている製品ではより生理的に必要なROSまでをも枯渇させ、『reductive stress』となり、正常な精子機能すら阻害してしまうリスクを考慮すべきである。

「酸化ストレス状態」にあれば、当然「抗酸化物質」でいいわけですが、ホメオスターシスが保たれている状態で、つまり、ROSが正常範囲内にあるのに、高用量の抗酸化物質を服用することで、ROSの生理的反応すらも阻害され、逆効果になってしまう可能性がある、で、その状態を『reductive stress』という単語で表現しているわけです。

目の前の人をきちんと「診」て、この方は、「oxidative stress」なのか?
「antioxidant」を使うと、「reductive stress」になってしまわないのか?
「料理は愛情」
「医療も愛情」
ね。

で!何よりも、「サプリメントの前にやるべきことがある!」
生活習慣を見直しましょう。
食生活を見直しましょう。

そんなわけで、「誰彼サプリメント飲みましょう」というのは僕の中では有り得ないと思っているわけです。

以上、この話題お終いです。
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ドクターI

Author:ドクターI
武蔵境生息、(自称)不妊屋「ドクターI」、自己流生殖医療を語ります。

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