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卵管造影と新生児一過性甲状腺機能低下症(2)

日本小児内分泌学会が2014年6月18日に「先天性甲状腺機能低下症マス・スクリーニングガイドライン(2014年度改訂版)」というのを出しております。
リンクはこちら。このPDFの4ページ目に「b. 一過性CH」(CH=Congenital hypothyroidism:先天性甲状腺機能低下症)という項目があり、その原因として6項目が示されています。
その5番目に「ヨード過剰」という項目があり(PDFの5ページ目)、そこにこう記載されています。

ヨード過剰を起こしうるものとして、ヨード剤による消毒、卵管造影の時に使用する油性造影剤、ヨードを多く含む食品、調味料、含嗽薬が挙げられる。 但し油性造影剤を用いた卵管造影をうけた妊婦すべてから、一過性 CH を発症することではなく、むしろ発症の頻度は低い(28, 29)。ヨード過剰により一過性 CH を発症するには、何らかの他の環境要因、遺伝要因の関与が想定されている。

で、この記載の根拠となっている引用文献の(29)が「子宮卵管造影後妊娠から出生した新生児における甲状腺機能の検討」という論文で日本内分泌学会誌の2012年に載った論文です。
この論文は短いのですが、論旨がよくまとめられており、非常にいい論文だと思います。
ちなみにリンクは、の、p28-30です。
以下、この論文の論旨。
  • 卵管造影後出生した児8人のマススクリーニングでの甲状腺ホルモン値を、同期間のコントロールの児2407人の値と比較検討
  • 卵管造影後出生した児8人は全例正常範囲内で、先天性甲状腺機能低下症の治療を要した児はいなかった。
  • コントロール群と比較しても、TSH値、FT4値ともに統計学的に有意差を認めなかった。
  • 本研究では HSG 後妊娠からの新生児で日齢 5 日のTSH と FT4 値を HSG 後の月数で比較検討したが特段の傾向は認めなかった。
で、この論文を書かれた先生は、卵管造影検査から以降、体に吸収されるヨウ素の量を理論的に計算(シュミレーション)していて、その結果を導き出しております。
その結果、こう結論付けていらっしゃいます。
  • 今回のシミュレーション結果からは造影剤のヨード負荷だけで妊婦の健康障害非発現量を超えず、食事等からのヨード摂取が多いことが重なると甲状腺機能障害につながる可能性が考えられた
  • 従って HSG 後妊娠による胎児・新生児がヨード過剰による甲状腺機能低下症を来した場合には、単に HSG検査が原因であるとはせず、以下の可能性について検討すべきであろう。
    1)通常より多量の造影剤を使用した
    2)癒着など解剖学的に造影剤が滞留しやすい構造があった。
    3)ヨードの豊富な食品の摂取習慣やヨード系消毒剤の使用など母親のヨード暴露が多かった
  • また、荒田らが指摘するようにHSG 検査後にはヨード豊富な食品の摂取やヨード系消毒剤の使用を控えるように指導することも必要であろう。
といった内容になっています。
ということでまとめると、基本的に卵管造影で使用した造影剤のみで児の甲状腺機能低下症を論じるのは、おそらくやや言い過ぎなのでしょう。
で、おそらく現在の平均的な考え方は、この論文の考察にあったとおり、卵管造影後にはヨード豊富な食品の摂取やヨード系消毒剤の使用を控えるようにすることで十分対策を行えば、卵管造影で使用した造影剤単独では許容範囲内に留まるのだろう、と考えられているようです。
我々医療従事者側もこの点を肝に銘じ、
  • 卵管造影時には、体内残留造影剤が必要最低限となるように心がける(添付文書では通常使用量は5-8mlと記載されています)。
  • 卵管造影後には、ヨウ素過剰摂取にならないような食事指導を行う。また注意しなければいけないのが、うがい薬などの市販薬ですね。
  • そして何より、妊婦健診中のヨード含有消毒剤の不必要な使用を控えること。
を心掛けるべきなのでしょう。

こんな感じです。
しっかり適応を見極めれば、油性造影剤による卵管造影は効果覿面の場合があります。
僕も、これだけで何度もいい思いをさせてもらいました。
明らかに不必要な場合はさておき、しっかりとした適応があるならば、児の一過性甲状腺機能低下を理由に卵管造影検査を避けてしまうのはどんなものでしょうか?
ただし、その後の「ヨード過剰摂取」には十分注意を払う必要があるようです。
そんな感じです。
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ドクターI

Author:ドクターI
武蔵境生息、(自称)不妊屋「ドクターI」、自己流生殖医療を語ります。

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