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【夏期講習】不育症(7)

【血栓性素因(thrombophilia)】

では、今日から血栓性素因を扱っていきたいと思います。
但し、一般の方にはおそらくなかなか理解が難しいと思うので、今日はテキストを離れて基礎の基礎のお話をしておきたいと思います。

医学書を紐解くと、「血栓症を引き起こしうる血液凝固系の危険因子のことを血栓性素因という」などと書いてあります。
「人より血が固まり易く、血管の中で血の塊(血栓)ができやすい状態」といった感じでしょうか。
こう聞くと、糖尿病・高血圧・高脂血症などの動脈硬化性病変の進展を引き起こすもののイメージがあるかもしれません。
これらも広い意味では「血栓性素因」と言わなくもないようですが、一般的には「動脈硬化性病変などなくても血栓を形成し、くり返し起こしてくるような病態」を指すようです。
誤解を恐れず平易に表現してしまうと、「成人病などのバックグラウンド無しで、血管の中で血液が固まってしまいやすい状態」といったイメージです。
血管の中で血が固まる(血栓ができる)とすると、いくつか思いつくと思います。
心筋梗塞、狭心症、脳梗塞などなど。
で、この状態が「不育症」と関係しているのではないか?と考えられているわけですね。

で、この「血栓性素因」は大きく2つに分類すると理解しやすいと思います(僕がこう理解しているだけかもしれませんが)。

  • 先天性血栓性素因・・・遺伝的要素で生まれながらに/体質として"血が固まりやすい"場合
    • プロテインS欠乏症
    • プロテインC欠乏症
    • アンチトロンビンⅢ欠乏症
    • etc etc
  • 後天性血栓性素因・・・"生まれた後に"自己免疫が出来て"血が固まりやすい状態"になった場合
    • 抗リン脂質抗体症候群
    • 第Ⅻ因子欠乏症(?)←抗第Ⅻ因子抗体??
    • etc etc

要するに、「遺伝的に持って生まれた"体質"として血が固まりやすい」場合と、「自己抗体が形成されることによりバランスが崩れ血が固まりやすくなった」場合に分けると(僕個人的には)理解しやすいと思っています。

例えば日本人には多いことで有名な「プロテインS欠乏症」、血を固まりにくくするプロテインSという蛋白質の活性が遺伝的に弱いわけです。
この状態は常染色体優性遺伝で、つまり先祖代々受け継いでいるわけです。

但し、今でこそ「血栓性素因」なんて聞くと、何やら悪さをされそうなイメージがあるやもしれませんが、人類の歴史を考えてみると、実は優良な遺伝形質だった可能性があります。
例えば出産。今の世の中ならいざ知らず(いや、今の時代も十分大変なのですが(^^;・・・)、医療の発達していなかった時代には、「血が止まりやすい」方が明らかに生存に有利なわけです。
他にも、闘争で怪我をした場合なんかも同じですね。
ちなみに、草食動物は、人より何倍も血が固まりやすいそうです。
つまり、自然環境で生存競争を行っていくためには、「血が固まりやすい」というのは、それだけ生存可能性を高めるわけで、生き残るために非常に有利な形質なわけです。
で、歴史的には人類の寿命は短かったわけで、そもそも血栓症で生命を脅かされるような年齢までの寿命が無かったので、そういった環境下では「血栓性素因」は生存競争を勝ち抜くために有利だったとも考えられるわけです。

所が、科学/医療が発展し寿命が延びて来た。すると、"血が固まり易い"という形質の利点が、必ずしも利点ではなくなってきてしまった、というわけです。

話がそれました。
で、「血栓性素因」、つまり、血管の中で血が固まって血栓ができやすい状態なわけですが、じゃあ、体の血管の中のどこかしこ自由に血栓ができるか?というとそうではないわけです。
「好発部位」と言って「体の中でも特に血栓ができやすい部分」というのがあります。
有名なのは、「エコノミークラス症候群」ですね。
血栓ができやすいのはなぜか「左足」と相場が決まっております。
(なぜ「右足」ではなく「左足」なのか?ご興味のある方はググってみてください。)

こんな感じで、体の中で「ここはできやすい」という部位が決まっております。
で、「胎盤」というのも「極めて血栓ができやすい」、つまり典型的な「好発部位」なのだろうと考えられています。

また、そもそも女性は、妊娠すると、生理的反応として「血が固まり易く変化する」ことが知られています。
先ほどちょっと書いた通り、「お産」は「出血」が付きものですから、「血が固まりやすい」方が有利なのです。
よって、生体防御反応的に、自然に、皆さんも妊娠すると「血が固まり易く」なるのです。
(例えば、前出の「プロテインS」は、妊娠中は(プロテインS欠乏でなくても)皆さん低下します。)

よって、
  • そもそも「血栓性素因」を有する人が(血が固まりやすい人が)、
  • 妊娠すると、さらに自然の力で血液が固まりやすくなり、
  • そんな中で、もっとも血管内血栓のできやすい部位が「胎盤である」
というわけです。
ね?これだけ条件がそろうと、専門医が「胎盤内血栓」としきりに言っているのが何となく理解できると思います。

これが、今回用いているテキストの7~8ページにまたがって書いてあることです。
コピペしておきます。

・・・特に血液の流れの遅い胎盤のまわりには血栓が生じやすく、胎盤梗塞により流産や死産が起こるとされています。・・・

そんなわけで、不育症と血栓性素因の関係、こんな感じで考えられているわけです。
(わかりにくかったですかね?説明力不足で申し訳ありません。)

続く
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ドクターI

Author:ドクターI
武蔵境生息、(自称)不妊屋「ドクターI」、自己流生殖医療を語ります。

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