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汝、そのAMH測るなかれ(1)

開業前後の事務仕事、実に膨大でしたが、流石にようやく終わりが見えてきた感があり、いよいよ「ARTの東京都の助成金指定医療機関」にとっかかりました。
だがし、これが結構大仕事で、まだまだ時間がかかりそうですが、幸い優秀なスタッフさんたちにお手伝いいただきつつ、着実に乗り越えていきたいと思っております。
東京都の助成金指定医療機関の認定状況、またご報告してまいりたいと思います。

さて、まだ開院数日しかたっていないのですが、すでに何人か「AMHが低いと言われた!!!」と半分パニックになっておられる方を拝見いたしました。
「もうこの世の終わりだ!」状態。

「まあまあまあ、慌てなさんな」となだめるのが僕のここ数日の仕事の一つ。
「まず、そもそも、何でAMHなんて測ったの?」
から入って、とくとくと説明していきます。

以下、あくまで「僕流」なのですが、僕個人的意見として、
「不妊症」と言って医療機関を受診した方全員に、スクリーニングでAMHを全例に測ることに絶対反対!
です。
どう考えても、AMHをスクリーニングで測ることによって、臨床的にpositiveに持っていく方法が思い当たりません。
逆に、こうした患者様方のように、AMH低値という結果を示すことにより、明らかにnegativeなストレスを与えることの方が多く、そうしたストレスフルな精神状態が、妊娠に向けpositiveに働くはずもなく。

いや、適応を満たせばいいのですよ。
エコーで見て、極端にantralが少ない/見当たらない。この裏打ちをする、とか。
卵巣嚢腫核出術をしている。そのダメージを見るとか。
医学的に適応があれば是非採るべきだと思うのですよ。
でも、健康診断みたいに「AMH健診」とか、まして「卵巣年齢を調べましょう」(←ちなみにAMHを「卵巣年齢」と表現するのは問題があると思いますよ)とかやるのは、単に「不安をあおっている」だけに見えるわけです。

どうも納得いかん。

僕がそう考える根拠を、もう少し整理してからこのブログ上に書こうと思っていたのですが、どうにもAMHで不安のどん底に落とされている方が直近多すぎて、取りあえず早急に、簡単にお示しいたします。

えっと、図は2011年のfertility and sterilityから。リンクはこちら。で、この論文は、論文そのものもネット上で見ることができます。の「figure1」がAMHの性質を見事に物語っています。



どうですか?
解説しますね。
確かに、全員で見れば年齢とともにAMH値は低下しています。
「全員で見れば」
でも、個人個人を評価するとどうでしょうか?
まず、keyは「緑」の線と「紫」の線です。
緑は「mean」、つまり「平均値」
紫は「median」、つまり「中央値」
で、どうですか?そうですね。
AMHの平均値は中央値よりも高い
わけです。これがKey1です。
冷静になって考えてください。ということは、そうです。実は
AMHは採血すると、過半数の人が「平均値」より低くなるんです!!
高いほうが少数派なんです。

その2。AMHに「正常値」はありません。というか設定できません。
グラフのmean±S.D.つまり標準偏差の範囲、見てください。
何と、28歳でAMH 0も標準偏差内に入ってしまいます!!
33才以降は、全年齢、AMHが0でも標準偏差内に収まっています。
しかも、±S.D.ですからね!±2S.D.ですらないんですよ!

つまり、AMHの標準偏差は非常に大きく、正常範囲を設定することはできません。
強いて言うなら、mean±S.D.を正常範囲とするなら、33歳以降はAMH 0でも正常範囲内ということになってしまいます。

多くの皆さんが「AMHが低いと言われた!!」とパニックになって駆け込んでいらっしゃいますが、そんなわけで、僕に言わせると、
「155cmで身長が低すぎると言われた!!」
と騒いでいるのに等しい。

いや、これよりもっとインパクトが無いかもしれません。
「ふーん。で?」
てなもんです。本当に。
そんな程度のものなのに、本当にオロオロさせられて可哀想です。

また、そんな状況なので、AMH値を「卵巣年齢」と表現するのは絶対に無理があります
科学的根拠に非常に乏しい。
「同世代に比べて残っている卵子数が少ない」
という表現なら、合っている(正確)だと思います。
ただし、これも、
「同世代の身長の平均は160cmです。でもあなたは157cmです。同世代に比べて低いです。」
位のインパクトしかありません。
本当に。

AMHが出て来たころは、僕も「これは凄いホルモンだ」と思っていました、が、この数字が与える患者さんへのインパクトが大きすぎると思います。
針小棒大もいいところ。
その程度の価値しかないものなのに・・・・・。本当に可哀想なぐらい悩まされて、精神的に追い詰められてしまっている方のいかに多いことか。
そうした精神状態こそ、逆にreproductionに対し、ネガティブに働くんじゃなかろうか?という状況だと、本当に危惧しております。

AMHをルーチーンで計って、患者さんを不安に陥れるの、どうですか?
医学的に真に適応があるときだけにしませんか?


これが僕の思いなのです。

もう少し時間ができたら、もう少し深く勉強しましょうね。
そんなわけで、AMH、そんな程度のものです。
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ドクターI

Author:ドクターI
武蔵境生息、(自称)不妊屋「ドクターI」、自己流生殖医療を語ります。

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