Entries

無月経、やります!(11)

さて続きです。
今日は『痩せ』と月経不順の話。

脂肪細胞は確かに「脂肪の貯蔵庫」としての役割があるのですが、様々な生理活性物質を分泌する「内分泌器官」であることがわかってきています。
脂肪組織が分泌する生理活性物質は総称して「アディポサイトカイン」と呼ばれ、レプチン、TNF-α、PAI-1、アディポネクチン(アディポネクチンは脂肪↑すると分泌↓する)などがあります。
そのうち今回の話に直結するのは「レプチン」です。

ヒトのレプチンは167アミノ酸よりなる蛋白質で、脂肪細胞より分泌されています。
働きは?というと、簡単に言うと
「満腹だよ」「脂肪いっぱいあるよ」
と全身(主に脳)に伝達する役割を持っていて、食欲と代謝をコントロールしています。
難しい言葉でいうと、摂食促進因子の抑制/摂食抑制因子の促進
簡単にいうと、「もうたんまりあるんだから、これ以上食べるな」
というわけですね。

一方、栄養がたんまりあるなら、それを使いましょう、とも働きます。
どうやって?代謝を活性化させて。
その一環として「生殖活動をアクティブ」な方向に向けます

また図を借りてきました。
(出典はAmyら、Endocr Rev 2009)



赤の「キスペプチンニューロン(Kiss1ニューロン)」が緑の「GnRHニューロン」の働きを促進し、「reproductive function=生殖機能」を勢いよく押し上げております!
で赤の「キスペプチンニューロン(Kiss1ニューロン)」に作用する因子がいくつか書かれていますが、左下の方に「Body fat(脂肪)」から「leptin(レプチン)」が出ており、「キスペプチンニューロン(Kiss1ニューロン)」を活性化する様子が描かれています

もうここまで書けばご理解いただけたかと思います。
そうです。レプチンは、キスペプチンニューロンの働きを促進します
レプチンは、脂肪細胞から分泌されるのでした。
つまり
脂肪が直接月経周期を作っている
わけです。

おわかりいただけましたでしょうか?
『痩せ(=脂肪減少)』→レプチン↓→キスペプチンニューロン活性↓→GnRHニューロンのGnRHパルスの低下(消失)→卵胞発育障害→月経不順/無月経
という流れです。

冷静に考えてみれば、生体防御反応として当たり前ですね。
「私の体飢餓状態だわ!」
「生殖なんかして、消費できる状態じゃないわ!」
「妊娠なんてとんでもない!」
「排卵止めなきゃ!」

という、非常に理にかなった反応です。
いやはや、人体、やっぱりよくできております。
自然ってすごいなぁ。神様はすごいなぁ。

ところがです、実臨床上は大変です!
なぜかって?
そんなわけで、「痩せの月経不順」は「体が発したSOS=妊娠させないで!」というサインなわけですが、ご本人さんに病識がありません!これが厄介です。

世間一般認識として、官民一体となっての
「肥満は悪」
というプロパガンダは見事に成功を収めているのは異論のない所だと思います。
まあ、それはそれで必要であることは間違いない所ですが、一方で、
「痩せは善(?)」
という、間違った意識が蔓延しております。

「こんなにきれいに痩せているのに、何で醜く太らなければいけないの?」
「そんなに増えたらパンパンになっちゃう!」
大体そんな感じです。

例えば
甲状腺ホルモン:出すぎ(機能亢進)も病気、出なさすぎ(機能低下)も病気
血糖:高過ぎ(高血糖)も問題、低すぎ(低血糖)も問題
これが理解できるのに、何で脂肪だけ
「肥満」は問題、「痩せ」は美しい
になるのか?甚だ疑問なわけです、が、大概聞く耳持っていただけません。
骨(骨塩)が減りすぎれば「骨粗鬆症」
筋肉が減りすぎれば「サルコペニア」
脂肪が減りすぎれば???

で、「妊娠したいんですけれど」といらっしゃいます。
現代医学、確かに対応できちゃいます。しかもそんなに難しくなく。

でも、大本は
「私の体飢餓状態だわ!」
「生殖なんかして、消費できる状態じゃないわ!」
「妊娠なんてとんでもない!」
「排卵止めなきゃ!」
なわけですから、本当にここで妊娠させちゃっていいんですかね?
医者としての良心が揺らぎます。し、ここで悩むこともあります。

但し、非常にありがたいことに、ちゃんと基準を設けてくださっています。
こちら。この4ページ目(この論文ではN-474ページ)の真ん中辺

われわれはホルモン補充療法で標準体重の75%以上、排卵誘発で標準体重の85%以上を治療基準と考えている。本症は卵巣機能は元来正常であるため排卵誘発の成功率は高い。体重減少中に妊娠すると母子に重大なトラブルを招く可能性があるため、栄養状態が改善してから計画的に妊娠することを心がける。

これが正解です(だと思います)。

体重はどこまで戻せばよいか?3ページ目(N-473ページ)の下の方

体重減少前の体重または標準体重の90%以上を目標に体重の回復を指導する。しかし、AN のみならず単純体重減少性無月経においても体重の回復は容易でないことが多い。単純体重減少性無月経ではやせ願望がある一方、病識があるので治療は受け入れやすい。

最後の一文には多少異論があるのですが、そんなわけで、「標準体重の90%以上」です。
まとめると、
  • 標準体重比75%以上(BMI 16.5以上)で月経誘導許可
  • 標準体重比85%以上(BMI 18.7以上)で排卵誘発許可(つまり妊娠許可)
  • 目標は標準体重比90%以上(BMI 19.8以上)
です。

印象派の代表画家の一人、「ルノワール」の絵画は今もって高く評価されています。
彼の絵画に登場する健康的で美しい女性たちのBMIはどのくらいでしょうか?
少なくとも18.7以下の女性は描かれていないと思います。

多分そういうことです。
スポンサーサイト
この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)
http://dokumotti.blog.fc2.com/tb.php/64-6c8049e2

トラックバック

コメント

コメントの投稿

コメントの投稿
管理者にだけ表示を許可する

Appendix

プロフィール

ドクターI

Author:ドクターI
武蔵境生息、(自称)不妊屋「ドクターI」、自己流生殖医療を語ります。

カウンター